The vanished landscape

L: From the series Borderland (11×14″ Lambda print* on baryta paper)
R: From the series Coastline (8×10″ Pigment print)
*Printed by professional lab Shashin Kosha, 2021

今はもう存在しない神奈川の風景。『Borderland』シリーズの舞台、元米軍施設の広大な敷地はテーマパークの建設に向けて再開発中。取り壊されて新たなレジャー施設に建て替えられたのは、戦後の一時期、米軍に接収されていたこともある『Coastline』シリーズ内の海岸のプール。現実からは消失しても写真には残せたこれらは、戦争の負の側面の他、調べれば色んな歴史を教えてくれた。駐留米軍が神奈川のビーチで嗜んでいたことから日本で普及したサーフィン、米軍基地でジャズ演奏する日本人をマネジメントする組織がのちの芸能界になったこと、撮影した米軍施設では二名の米軍職員が旧ソ連に亡命、彼らの声明によってアメリカが同性婚を認めるきっかけになったこと、日本国内にも国境が存在することなど。

*参考文献:『米軍基地と神奈川』栗田尚弥、他

 

Participated as a guest in a regular meeting of the tourism association, cultural property researchers, and city cultural assets division staff. / 普段は自治会の月例役員会議で訪れるコミュニティルーム

羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)の折り本がきっかけで、観光協会と文化財調査員の方々の定例会の場にゲストとしてお呼び頂いた。市の職員の方もご同席されていて、市内の戦争遺産や文化財登録制度に関するお話もあった。会議後、観光協会支部会長からまるで試験のように尋ねられた。「更地になって文化財登録が抹消された女子大の戦争遺構は知ってた?」。知りませんでした、と正直に答えた。「城に興味はある?」の質問には、和紙と和綴じで自家製本した江戸城の採石場の写真シリーズ『The Wall』を思い浮かべた。文化財や地層や動植物のリサーチ、城跡の発掘調査や史跡のガイドをされている文化財調査員の方々からは、講習を受講して推薦を経ればスタッフに加入できるとお教え頂いた。来年の抱負にそれを含めようと思った。

 

Collection: Art exhibition catalogue ♯5

シンポジウム『タイポグラフィ・タイプフェイスのいま』
女子美術大学 2004
Symposium “Today’s Typography and Typeface”
Letters for Printing in Digital Age
Joshibi University of Art and Design 2004

図録コレクションから第五弾 | 図録と会議録

ノートやメモは自分のために残すもの。書いては捨ててしまうものも少なくないかもしれないけれど。2004年12月4日、ヒラギノ明朝体や小塚明朝など国内主要書体の書体設計家やデザイナーの先生方が女子美術大学相模原キャンパス2号館224教室に一堂に会して『タイポグラフィ・タイプフェイスのいま。デジタル時代の印刷文字』というシンポジウムが開催された。観覧者だった僕は、第三部で司会を務められた教授 (*) のお話を20年後に思い出すことなどつゆも知らずにメモしていた。

印刷物の与える影響 丸ゴシックの出現 → 手書き丸文字の出現

「我々はもう連綿で平仮名を書きませんから、それは印刷文字からの影響とも言える。私は丸文字第一世代ですが、本文に丸い文字やゴシックを使い始めたことが影響している。書き文字が印刷文字に影響を与えるよりは、印刷文字が書き文字に影響する方が多いのは歴史的に見てもほぼ間違いないと思います」

 

21年前のフライヤーと丸文字第二世代のメモ

20年後、独学の僕は「あの日、あの会場にいたんです」とはさすがに言えなかった。昨年、iwao galleryで20年ぶりにお目にかかった永原教授のサイン入りのご著書を “利き紙” してみようと、その帰路、鞄から取り出した。カバーに使われている紙の面質はヴァンヌーボのようで違う。アラベールやミスターB系にも思えるのだけれど、どちらかというと阿波和紙「いんべ」厚口を白く薄くしたようなオフセット印刷用紙はちょっと思い浮かばなかった(波光という用紙だった)。本の内容を表しているはずのタイトルの書体は、20年前のあの日を思い起こすような連綿の平仮名だった。連綿の平仮名フォントなんて僕は見たことがなかった。それはきっと先生の研究室で設計(デザイン)された書体に違いないと僕は勝手に想像した。

造本コンセプト『日本語のデザイン 文字からみる視覚文化史』永原康史: takeopaper.com

*当時、国際情報科学芸術アカデミー (IAMAS) 教授、のちに多摩美術大学教授、デザイナー&アートディレクター。写真上・左隅は女子美術大学図書館・女子美術大学美術館共同企画展『活字書体の源流をたどる』図録(2006年)

 

Collection: Art exhibition catalogue ♯4

『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』
DIC川村記念美術館 2023
“Josef Albers: Pedagogical Experiments”
Kawamura Memorial DIC Museum of Art 2023

図録コレクションから第四弾

展覧会のタイトルどおり、入場者が参加できるワークショップがあった。バウハウスやブラックマウンテン・カレッジの美術教師だったジョセフ・アルバースの教えのように、一枚の紙を折って何らかの形を作り出し、紙は折ることで強度も得られることを知る。あるいは複数の色紙を重ね合わせて色の相互作用を体験する。一方で、画家でデザイナーでもあったジョセフ・アルバースの「正方形讃歌」シリーズを展示ブースで見たときには、あくまで僕は配色実験の要素よりも、近づけばなぜかその筆跡にアンドリュー・ワイエスの絵から感じる静謐さと似たようなものを感じたり、引きで見るとその大きさも相まって一際美しいミニマリズムの抽象画に思えた。などと、感想を述べることさえおこがましく感じるけれど、DIC川村記念美術館が閉館する前に素晴らしい展覧会を見られたことは幸せだった。図録には様々なバウハウス関連書籍を補完するようなテキストと図版が満載されている。352頁、発行: 水声社

 

『一般教育と美術教育 所有的か生産的か』ジョセフ・アルバース/『ジョセフ・アルバースの授業』より

ここで、いわゆる進歩主義教育のもたらしたお粗末な遺産について触れておきたいと思います。それは、あらゆる芸術にとってきわめて重要な原理は、自己表現であるという考えです。私は自己表現が芸術学習の始まりだとも、いかなる芸術の最終目標であるとも思いません。(中略)しかし不思議なことに、そのような落書きを自己表現 − それゆえ芸術として受け入れてしまう人は少なくないのです。

『デザインについて バウハウスから生まれたものづくり』アニ・アルバース

古代ギリシアの水がめは、現代で使うには向かないけれども、いまだに私たちに崇敬の念を抱かせてくれます。今度はバケツはどうでしょう。現代においてはだいたい同じような用途を果たすものです。古代の器に比べたらはるかに機能的ではあるけれど、小恥ずかしくて赤面しそうになりませんか。なぜなら、遠い将来、私たちの文化水準がバケツ並みだと判断されそうだからです。

*テキスタイルアーティストのアニ・アルバースの言葉は工芸品と大量生産品についての所感というニュアンス。

 

Books | Left to Right:『配色の設計』ジョセフ・アルバース 永原康史監訳、『ブラック マウンテン カレッジへ行って、考えた』永原康史、『デザインについて バウハウスから生まれたものづくり』アニ・アルバース 日髙杏子訳、『美の構成学 バウハウスからフラクタルまで』三井秀樹、『BAUHAUS HUNDRED 1919 – 2019』伊藤俊治

 

Collection: Art exhibition catalogue ♯3

『初期浮世絵展 版の力・筆の力』
千葉市美術館 2016
“An Exhibition of Early Ukiyo-e: Power of the Woodblock, Power of the Brush”
Chiba City Museum of Art 2016

図録コレクションから第三弾

平安貴族の女性は黒髪ロングのストレート。江戸時代の美人画の女性はかんざしを挿して髪をアップに結い上げている。西から東へ、鎌倉時代からの流れかと思いきや、日本髪と呼ばれる江戸のヘアスタイルは歌舞伎で言うところの女形スターの容姿を女性が模したのが発端、つまり男装らしい。江戸の大衆文化はわりとジェンダー・ニュートラルだったのかもしれないし、社会学的に浮世絵を鑑賞するのも面白いかもしれない。
2016年の『初期浮世絵展』は日本大学芸術学部美術学科出身の女性が案内してくれたもので、事前に菱川師宣記念館に立ち寄っていたことが伏線となった。前知識を有していなかった自分の方が夢中になってしまった。その感動は書ききれないし、ここでは知ったかぶりで絵師の名を列挙するのはやめよう。屏風画にも、絵巻にも圧倒された。実物はすごい。描かれている物語のスケール、モノとしてのディテール。和本にも見入ってしまった。そんな中、1741年頃に遠近法を試みて、遠近感が一部おかしくなった奥村政信の「両国橋夕涼見大浮絵」を始めとする三点には、このような涙ぐましい努力があって新時代が開かれるのだ、と泣きたいくらい感動したのを覚えている。心残りは、紙に着目するのを忘れたこと。和紙であることに違いはないだろうけれど、きっと和紙だから残るのだ。

 

Left: 奥村政信と西村重長 Right: 菱川師宣
この図録は実に301頁、図版195点、1430g。タイポグラフィが美しい。
図録制作: 美術出版社デザインセンター
参考文献: 『春画のからくり』田中優子、『江戸へようこそ』杉浦日向子、『和本入門』橋口侯之介

 

Collection: Art exhibition catalogue ♯2

『版と型の日本美術』
町田市立国際版画美術館 1997
“Impressions in Japanese Art”
Machida City Museum of Graphic Arts 1997

図録コレクションから第二弾

紙を発明したのは中国だった。原料にセイタンという植物の樹皮を用いた手漉紙を宣紙という。手漉きの技術が日本に伝わり、原料に雁皮や楮(こうぞ)を用いて和紙が生まれた。「もともと日本には文字すらなかった」。昨年、デザイナーで多摩美術大学元教授の永原康史先生は蔵前のiwao galleryでそう仰られた。先生のご著書『日本語のデザイン 文字からみる視覚文化史 (*)』では「紙のデザイン」の章で中国由来の装飾紙、唐紙(からかみ)が取り上げられている。町田市立国際版画美術館の図録『版と型の日本美術』にも「料紙装飾」の章で唐紙に関する学術的解説がある。二冊を併読すると、貝殻の粉や顔料を混ぜ合わせて色をつけ、さらに文様が摺られた唐紙はそれ自体が美しいけれど、その装飾を活かすように余白をたっぷり設けて書かれる女文字(平仮名)の美しいこと。平安時代、貴族の嗜みは紙とタイポグラフィがセットなのだ。図録は京都便利堂の制作。章立ては、型押(仏像)、型染(着物の文様)、料紙装飾(唐紙)、仏教版画、模写、出版(経典)、そして版画(浮世絵)。2006年に女子美術大学で見た『KIMONO 小袖にみる華・デザインの世界』展とも重なる。充実の内容にも関わらず、美術館では今や¥1,400という格安プライスタグがついている。図録の在庫数は数冊とのこと。

*私の所有する本は永原教授のサイン入りiwao galleryエディション。先生と磯辺さんに感謝します。
*女文字や女手と呼ばれた平仮名が公用で使われたのは紫式部の源氏物語以降、それ以前は漢字のみ。

 

Left: 昨年の展示では宣紙にジークレープリントされていた中国出身ロンドン拠点のビジュアルアーティストFeiyi Wenさんの作品
Right: 『日本語のデザイン 文字からみる視覚文化史』永原康史
他の参考文献: 『日本史を支えてきた和紙の話』朽見行雄、『和本への招待 日本人と書物の歴史』橋口侯之介

 

Collection: Art exhibition catalogue ♯1

まえおき: 自分にとっての教科書として、美術展鑑賞の際に時々購入する展覧会図録をいくつかここにアーカイブしておく試み。自分の言葉で言語化するのは難しいけれど。

『版画 × 写真 1839 – 1900』
町田市立国際版画美術館 2022
“Prints x Photographs 1839 – 1900”
Machida City Museum of Graphic Arts 2022

それは描かれたものなので版画に見える(写真上)。西洋画家の間で流行したらしいクリシェ=ヴェールという技法は、ネガとなるガラス板に乳剤を塗って、それを掻き落としながら絵を描き、ガラス板の下に印画紙を置いて日光で焼きつけるものらしい。インクを使わない、版画の世界のオルタナティブ・プロセスかもしれないし、薬品や印画紙や露光は写真技法。
1800年代、カロタイプを考案して、世界で初めて写真集を作ったのはクリシェ=ヴェールの発明者でもあったイギリスの物理学者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボットだった。2022年に町田市立国際版画美術館で開かれた『版画 × 写真 1839 – 1900』展の図録には、版画と写真の関係性が多くは平易な短文と図版で纏められている。手触りが良いこの本には表紙を含めて三種類のマット調の用紙が使われている。掲載内容は、トルボット(図録表記はタルボット)やナダールなど歴史上の人物と作品、カメラ・オブスクラ、ダゲレオタイプ、ネガ・ポジ法や鶏卵紙、カロタイプ、バクステロタイプ、ピクトリアリズムなどの技法や動向、風景: 記録と芸術、報道: 主観と客観、芸術と商業の論争。印刷はニューカラー写真印刷。

 

世界最初の写真集、トルボットの『自然の鉛筆』日本語版 赤々舎
The Pencil of Nature / William Henry Fox Talbot (AKAAKA, 2016)

トルボットが用いた「フォトジェニック」という言葉は、見栄えの良い綺麗な写真という意味ではなく、光で絵を描く写真技法のこと。畠山直哉氏の著書『話す写真』に解説があった気がする。2010年のポートフォリオ・レビューでレビュワーを務められた編集長もこう仰られていた。「写真は写真にした時点で、どれもフォトジェニックなんですよ」

 

log: exhibition viewing 2025

Left 1.2: iwao gallery | Right 1.2: TOP Museum

Photography
2025.01Kozo Miyoshi童夢 | ChildhoodPGI gallery
2025.01Muga MiyaharaKATAMARITaka Ishii Gallery
2025.05Bryan SchutmaatSons Of The LivingTerrace Square
2025.07Kazuho MaruoDawn Chorus
祝・出版、本のご恵贈に感謝
BOOK AND SONS
2025.09Luigi Ghirri終わらない風景 | Infinite LandscapesTOP Museum
Paintings, Sculpture, Literature, etc
2025.01Katherine Bradford水の街を飛んでいくTomio Koyama Gallery
2025.01Leiko Ikemura, Mark MandersRising Light / Frozen MomentMOT art museum
2025.07Mai Miyake川の流れのように | Still water runs deepiwao gallery
2025.08小金沢智, 岡本健, 岡澤慶秀, 岡安賢一, 大和由佳, 吉江淳夏のうたげ、東京iwao gallery
2025.10月岡芳年, 水野年方夢の江戸へ | Beauties in Ukiyo-e and Historical RomanticismMachida City Museum of Graphic Arts
2025.11文化展Asamizo Community Center
2025.11Yuko HorieBlue Pearl:with respect and gratitude to Kosho Itoiwao gallery
2025.11Talk Event:
Curator / Critic (Professor) Yukiko Shikata + Yuko Horie
iwao gallery

 

January 17, 2025 | Near the PGI gallery. Raymond Hagewoud (@hedgeforest), a Kampen, Netherlands-based photographer, walked with me around the Roppongi and Azabu areas and viewed several exhibitions. He gave me a present: The art book “Arnordir” by French artist Florian Maricourt. Arigatou.
PLAUBEL makina 67, ILFORD HP5 PLUS, Self-development (Fujifilm Microfine 20℃ 8’30”, SILVERCHROME Rapid Fixer)

 

Water Deity

Making a folding book | Water Deity (1’51”)

[EN] Black-winged damselflies live in places where there is clean water. Instead of hovering like dragonflies, they flutter as butterflies do. People call them kami no tsukai (“messengers from the divine”). Populations of these creatures, which are emblematic of areas with spring water like ours, are shrinking year by year, and in Tokyo they have been declared an endangered species. In Japan, dragonflies and damselflies, which only ever fly forwards, are nicknamed Kachimushi (“victory insects”) for their fortitude and seen as good luck symbols. In English-speaking countries, the name for the suborder of insects called tonbo in Japan is “dragonflies”, while the name for the suborder called itotonbo here is “damselflies”. A damsel is noblewoman or a maiden. Having very dark, jewel-like wings, the black-winged damselfly is also called the “ebony jewelwing”.

The design: I used coarse paper, as I wanted to give the impression of ink painting on aged hemp paper. Fifty copies of this folding book were created at the request of a local tourism association that organizes guided walks as part of its educational and cultural activities. For the benefit of participants in the event where the books are distributed, the information on the black-winged damselfly is printed on the reverse, allowing it to be read even when the paper is folded, and the illustrations showing how to fold the paper are positioned so as to be invisible after folding. This handmade book can also be displayed like a traditional East Asian folding screen.

B4 variant format 348 x 250mm
Folding book 58 x 125mm
16 pages, 12 photos (from the series Eden)
Pigment print on coarse paper
Edition of 50
Photographs, Illustration and Text by Masato Ninomiya
Translation by Michael Normoyle and Yoshiko Furuhashi at M&Y Translations, Rotherham, UK

 

*前回投稿は経緯、今回は折り本の説明です。英文の前半は別途納品する地元の羽黒蜻蛉に関するレポートに(ガイドウォークの参加者は今後日本人のみとは限らないことを想定して)併記したものです。

[JP] 羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)は水の綺麗な場所に生息し、他の蜻蛉のようにホバリングをせず、蝶のようにひらひらと舞い、神の使いとも言われています。湧き水のある地元地域を象徴する生物です。しかし、年々生息数が減少しており、東京では絶滅危惧種とも言われています。日本では常に前向きに飛ぶ蜻蛉は不屈の精神を表す「勝ち虫」として縁起物とされますが、英語圏ではトンボ亜目をドラゴンフライ、イトトンボ亜目をダムセルフライと言います。ダムセルとは貴婦人あるいは乙女のこと。羽黒蜻蛉はBlack-winged damselflyと言い、漆黒の宝石のような翅、Ebony jewelwingとも呼ばれています。

デザイン: 古麻紙に描かれた墨絵のような風合いを出したかったので藁半紙を使用。学習・文化活動の一環でガイドウォーク(解説員と共に史跡や自然を巡るウォーキング・イベント)を主催する地元の観光協会からのご依頼で50部ほど制作した折り本のため、イベント参加者の方々が楽しめるように、裏面には羽黒蜻蛉の説明文を記載し、折り畳んだ状態でも読めるようにしました。折り方を描いたイラストは紙を折り畳むと見えなくなるように配置。この手作りの折り本は東アジアの伝統的な屏風のように立てて飾ることもできます。

 

wip: Handmade folding book


前にしか飛ばないトンボは勝ち虫として縁起物とされるけれど、羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)の僕のイメージはちょっと違う。他のトンボのように素早く飛んだりヘリコプターのようなホバリングはしない。木陰の地面でじっと休み、ひらひらと舞い、神の使いとも言われ、水の綺麗な場所に生息する。そんな羽黒蜻蛉は地元自治会エリアを象徴する生物。関東大震災で軒並み井戸が枯れた際、この地区の湧き水が重宝されたという記録が残されている。僕は今年度から自治会協議委員を務めている。役員会議のあと、学習・文化活動に携わられている役員さんに呼び止められて羽黒蜻蛉のことを尋ねられた。僕が写真シリーズの一環として試作した折り本を地元の観光協会が主催するガイドウォークのイベント用に50部ほど提供してもらえないかとの相談だった。その制作費も支払われるという。

 

地元の羽黒蜻蛉は、雑木林の中に佇む小さな神社の境内に集まってくる。神社から坂を下った先には6月に蛍が舞う小川が流れている。僕は大地主の会計役員さんに尋ねた。「神社の崖下に『水の神様』が祀ってあると聞いたんですけど」。「うん、あるよ」と大地主さんは言った。「あそこ、昔はわさび畑があったからね」。副会長は言った。「わさびは今も採れる」。「わさび? じゃあ、綺麗な水辺の辻褄が合いますね」と僕は言った。すると前会長の自治会顧問が「でも今年の羽黒蜻蛉は数が少ないよ。東京で絶滅危惧種というのも頷けるね」と言った。別の協議委員さんは折り本を見て「これ素敵。パタパタパタって畳めるし、白黒がいいじゃない。翅が綺麗に映えるから」と言った。ガイドウォークの参加者の方々に自ら紙を折って頂くのも体験のひとつになるかもしれないし、折り本は屏風のように立てられるので、いっとき部屋にも飾れるかもしれない。生物も文化財も、時が経つと失われてしまうものがあると依頼主の役員さんは言っていた。ちょっとした制作物が一転して地元に貢献できるなら、これは嬉しい誤算と思えた。

 

In conversation with…

「私のお気に入りの曲。優しい音」と拙い動画にイギリス拠点の数名が親切なコメントをくれた。住宅事情でクラシックギターをしっかり鳴らせなかったけれど。そのうちのひとりは中国出身のビジュアル・アーティスト、フェイイ・ウェンさんだった。銀座シャネル・ネクサス・ホールで開かれた昨年の二人展の印象を僕は改めて伝えた。「フェイイさんの掛け軸のようなフォーマットのアイデアを思い出します。掛け軸は、東アジアの(特に日本では)忘れられがちなトラディショナルなもの、西洋ではオルタナティブなものに映るでしょう。中国の宣紙も使われてるんですね」。フェイイさんは改まって丁寧な返信をくれた。その中では中国人アーティストとして日本では難しいと感じることにも触れられていた。交流を続けましょう、というお言葉に是非と思う。フェイイさんはイギリスの大英図書館でデジタイザーのお仕事をされている。

 

Alternative / Experimental music:
Sun Drawings by Richard Higginbottom

インスタグラムのストーリーズに投稿したクラシックギターの動画は、イギリスのRichard Higginbottom氏には伝わったらいいなと思って録ったものだった。彼はメトロポリタン大学アートコース講師、写真家、インディペンデント・パブリッシャーの創始者で、昨年からは音楽プロジェクトも始めた。その際に僕は彼に伝えた。「昔、僕もそれを(TASCAMの8トラックMTR)使ってたよ」。すると彼は言った。「これを? ほんとかよ」。口先ではいくらでも言えるので、ある種の証拠を示したかった。それを喜んでくれた。ピアノとその他の鍵盤楽器は似て非なるもの。同様にギターを弾けると言ってもスチール弦のギターとはネックの太さ(指板の幅)がまるで異なるクラシックギターを弾けるとは限らない。典型的かもしれないが僕はセブンスコードとナインスの音が好きなので、その響きが含まれる選曲をした。そんな旧来のクラシックギターやピアノやテープを用いて、先駆的で実験的な楽曲を制作する彼に敬意を払うつもりで。

 

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