Eggs and Asparagus / Hereafter

Hereafter by Federico Clavarino. Skinnerboox, 2019
Eggs And Asparagus by Marcello Galvani. Skinnerboox, 2017

Eggs And Asparagus』というタイトルからは食卓や団欒、ページを捲っていくと特定地区の日常や風習を写しとったフォトストーリーに感じられる。2019年のブックフェアの会場でIACK河野さんから「ここに売り物として持ってきたものではないのですが」とこっそりお見せ頂いたのがマルセロ・ガルバーニの写真集だった。大判8×10、あるいは中判6×7を思わせるその縦横比率と作画は、まるでアメリカのスティーブン・ショアのようで、所々はイタリアのグイド・グイディのようで、しっとりとした色味はルイジ・ギッリのようだった。三者(四者?)をいっぺんに味わえるようなその写真集の後日のオーダーをお約束して、ある写真家への個人的なお礼の品に当時もう一冊オーダーさせて頂いた。本をお送りした方からは、のちにそのお礼にと同じイタリアの写真家フェデリコ・クラヴァリーノの『Hereafter』がIACK経由で送られてきたのだった。

 

Hereafter』を手にとると、間接的に色々と教わった(と僕が勝手に感じている)ある人を思い浮かべる。Roots、History、Family Archive、自身のアイデンティティにも紐づくようなそれらの言葉をよく用いていたのは、ロンドン芸術大学でMA (Master of Arts) in journalismの修士号を取得しているスロヴァキアの写真家Michaela Nagyidaiováだった。狭義では、演出していないものをドキュメンタリー写真と呼ぶかもしれないけれど、組写真で構成するものには(過去を写せない写真では)事実の事象のモチーフとなる史料、地図や手紙、生前撮られた写真などを引用したりコラージュすることもあるかもしれない。ある時期、彼女のシリーズを度々目にして(*)、彼女のZINE『Revisiting the Roots』を一冊郵送してもらい、数年前には彼女が創設したプラットフォームの公募とそのオンライン展示「Hidden Histories」に僕も参加した。フェデリコ・クラヴァリーノの『Hereafter』にも先に挙げたキーのいずれか、あるいはすべてが内包されている。

二冊の内容についてはIACKのサイト(文中のリンク)で解説されている。今更ながらも読書メーターには登録出来ない一部の写真集購読ログとして。 [book review]

*彼女の名前のイニシャルは僕と同じなので、アルファベット順で表記されるコンペティションや公募の選出者リストで隣り合うことがあった。

 

Der Sonnenstich by Katinka Bock

Der Sonnenstich by Katinka Bock. Roma Publications, 2023

フォーム(形、形態、Form)を示唆しているのかなと想像しながらページを捲って、これは家に置いておこうと購入したのは、ドイツの彫刻家カティンカ・ボックの写真集。白黒写真主体の写真集はミニマリズムの画家エルズワース・ケリーなど、写真家ではないアーティストのものしか今の僕は所有していない。

ここ数年、メニエール病が再発さえしなければ、Post ClassicalとかNu-Jazzあたりの音楽を聴いているのだけれど、ポーランドのピアニストHania Raniの、まるでアートブックのような楽譜(Esja / Home)を知ったとき、書棚に飾ったり、観賞用の本としてコレクションしたいと思った。この写真集の購入動機もほぼ同じだった。以前、スウェーデンの出版社エディタが、私は薄くて美しい本が好きだ、と仰っていた。ハードカバーでボリュームのないものをうまく想像出来なかったけれど、美しさとは詰め込むことよりも省くことかもしれない。この写真集の装丁には作家名とタイトルしかなく、下地とほぼ同色のデボス(凹)加工となっている。光の加減によってはその文字は消失し、白いテーブルにこの本を置くと、薄くて平らなプライウッドのように見える。美術館の白い部屋に積み重ねられていたら、遠目には本とは気づかず彫刻と見紛うかもしれない。そんな佇まいに、不思議と親しみやすさすら覚える。極めてシンプルな美しさを持つハードカバーの本には初めて巡りあったような気もする。

Photographを日本語訳すると、写真ではなく光画であると何かの本で読んだ気がする。この本のドイツ語タイトル『Der Sonnenstich』は「日射病」らしい。「Sonne」と「stich」で「太陽の棘」。購入したショップとは異なるけれど、この本の刊行の経緯と内容は金沢IACKのサイトで解説されている。

 

 

One Eyed Ulysses by JM Ramírez-Suassi

One Eyed Ulysses by JM Ramírez-Suassi. WebsiteInstagram

「版元ではソールドアウト。最後は日本に向けて発送」。その数日後、石川県金沢市のオルタナティブスペース・IACKサイト上で紹介されていた写真集。自費出版でブックフェアにも出展されていた活動にも敬意を込めて、Tumblrで長年フォローさせて頂いているスペインの写真家JM Ramírez-Suassi氏の「単眼(ひとつ目)のユリシーズ」を紹介させて頂きます。

 

動画 : 1分50秒
ギリシャ神話のユリシーズ Ulysses、単眼の神はキュクロープス Cyclops。昔、日本大学芸術学部美術科出身の元パートナーが西洋絵画を学ぶ上でギリシャ神話は外せないと言っていたことをちょっと思い出します。Suassi氏の写真集にステートメントは記されておらず、オフィシャルサイト上にテーマと、ドキュメンタリーの形式はとっていない旨が記されています。Tumblrではこれまで常に6枚ずつくらいのセットで投稿されていて、それらは辺境の地の孤独 solitude (≠loneliness)、憂鬱 melancholy、そして動物の死骸などの直接的な表現は、死との遭遇と自然 The encounter with death and nature のイメージでした。そんな中、本になった写真集を手にとってみると、引き伸ばされた判の大きさも相まって、直視というよりも客観的 an objective eye、最後の有刺鉄線は境界線 a boundary line、表紙ブックデザインからはその世界を覗く bird’s eye view、あるいは生命や希望を見つけるような印象も受けました。辺境から都市部へ、2013年から2017年までの4年間をかけて、一部を除きスペイン・マドリードで制作されたと写真集に記されています。

One Eyed Ulysses by JM Ramírez-Suassi
First edition published by NOW Photobooks, 2018
24x30cm / 91 photos / 144 pages / 175 copies
ISBN 978-84-09-00299-3
Distributor: IACK online : ¥6,588

*2020年、私は6年間使用したTumblrから撤退しています。