in Shodoshima | Setouchi Trip

1年ぶりに高松へ行った8月のお盆、帰路、30年ぶりに小豆島へ渡った。土庄港から島の北側を回りたかったけれど、車に多少トラブルもあって、走行距離が短く観光スポットが多い南側から坂手港へ向かった。坂手港に着く前に映画村には行こうと思った。4月にオープンしたGallery KUROgOに寄ってみたかったのだ。映画村では真っ先にギャラリーへ向かった。KUROgOってどういう意味なのか、gが小文字の理由もまだそのとき知らなかった。

 

ギャラリーでは、俳優/写真家の永瀬正敏さんの写真展「flow」が開かれていた。7月に放映された情熱大陸の(主に写真家としての)永瀬さん回を思い出しながら一通り展示を観たあと、受付のところで「図録的なものはありますか? ステートメントがないみたいなので」と尋ねた。すくっと立ち上がった女性は「ないんですよ、そうなんですよ、でもここは雅哉の部屋を再現してるから」と言った。納得した。僕はまだ映画「光」を見ていなかったのだ。映画の主人公=永瀬さん演じる弱視で視力を失う写真家・雅哉の部屋を再現しているなら、部屋にステートメントがあったらおかしいのだ。よかったら説明させて頂いても?と展示作品の詳細説明を受けた。何か気になるものはありますか?の問いに「あります」と答えた。「この列ずっとモノクロのストリートスナップ系なのに、なんでここだけカラーで、ホンマタカシさんとか佐内さんみたいにニュー・カラーみたいな写真になってるのかなとか」、「ですよね、ニュー・カラーっぽいですよね。しかもこれ、都内だし」。おっ?と思った。そうして、「逆に聞いてもいいですか?」とその人は言い、業者さんによるある作品の仕上げ加工に関してその人がずっと懸念を抱いていたことについて聞かれた。それには驚いた。あと2週間で会期終了にも関わらず(注釈 : 会期延長、来年のお正月まで開催)、最後まで永瀬さんの作品群とその見え方に配慮していることがすごいと思った。

 

「黒子」という言葉はよく聞くけれど、黒子は元々「黒衣」と言ったらしい。「こ」じゃなくて「ご」なんだよ。gを小文字にしようと考えたのも私です。そんな数々のエピソードも自分は当分忘れないだろう。本業グラフィックデザイナーのその人が数年前、映画村内ロケセットでたまたま見つけた煙草の看板の話は特に印象的だった。昭和初期の木製の看板、その写真を見せてもらうと、刻まれた文字は右から左へと読み、中央には煙草の銘柄が彫られていた。その銘柄は「光」。鳥肌が立った。のちにその人が映画「光」と出会うこと、それがその人にとって何らかの転機になることをそのとき示唆されていたのではないかと思った。映画村内にギャラリーを作りたいと手を挙げた人、その第一回企画展が映画「光」に基づく永瀬さんの写真展「flow」になり、そのフライヤー制作を手がけたのもその人に他ならないからだ。

 

渡し船の旗のロゴ、ブックカフェのロゴ、お土産の袋、パンフレット。デザイナーはよっぽどのことがない限りクレジット表記されない。もしもそれらにクレジットが入っていたら、人の目はそこに行ってしまって、デザインの意図が伝わりづらくなってしまうのかもしれない。袋に描かれているランダムな青い線は瀬戸内の穏やかな波を表していて、一枚一枚表情が違うとその人は言っていた。たぶん多くの人はそれらデザインにあまり関心を持たないまま手にしている。それでいいのだ。お土産を買い、家に帰ってもう一度それを見たときに、無意識に瀬戸内に行ってきた感覚を思い起こすからだ。渡し船の旗やロゴ、人は無意識にそれを目印にして行動している。デザイナーの知恵、黒衣のように名は出なくても、人の役に立つ、どれもこれもいい仕事してるな!と僕はその人に思う。お腹すいたーと言いながら、今日も夜な夜なペンタブレットでも走らせているのかも知れないけれど、小豆島に知り合いが出来たこと、そしてその人が作るものは全部、僕はそこがその人の個性だと思うけれど、そのアイデアに愛着が持てること、帰ってきてからの自分にとってそこがなにより嬉しい。

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